埼玉県川口市の会計事務所|埼玉県川口市の税理士事務所|経営革新等支援機関

048-256-3414

受付時間9:00~17:15(月曜日~金曜日)

適格請求書・登録番号 T6030001074753

税金ホットライン 詳細

掲載日:2023.08.07
一括購入した土地及び建物の取得価額は、売買契約書に記載された金額と固定資産税評価額の価額比のいずれにより算定すべきか
一括購入した土地及び建物の取得価額は、売買契約書に記載された金額と固定資産税評価額の価額比のいずれにより算定すべきか

 不動産所得を生ずる個人が賃貸用の土地及び建物を一括購入しました。土地と建物の取得価額については、売買契約書に記載された金額をもとに所得税確定申告をしました。
 これに対して、課税庁が更正処分等を行い、その後、その個人が国税不服審判所に審査請求をしました。

個人の主張:売主と買い主が交渉を行った結果の取引であり、合意された価額であるため、売買契約書に記載された金額は合理的な価額である。
審判所の判断:売買契約書に記載された金額は、建物の価額が過大であり、認められない。合理的な基準である固定資産税評価額比により按分すべきである。
結論:審判所の判断通り、売買契約書に記載された金額ではなく固定資産税評価額比で土地と建物の取得価額を計算すべきである。(令和4年9月9日裁決)

1 事実
(1) 事案の概要
本件は、賃貸用の土地及び建物を一括して購入した審査請求人(以下「請求人」という。)の不動産所得について、原処分庁が、売買契約書に記載された土地及び建物の価額が著しく不合理であることから、当該土地及び建物の固定資産税評価額の価額比に基づいて建物の取得価額を算定すべきであり、減価償却費が過大であるとして所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該売買契約書に記載された建物価額を基に取得価額を算定すべきとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
・請求人が購入した不動産及び不動産売買契約書の記載内容等について
(イ) 請求人は、平成28年7月15日、土地及び建物(以下「本件物件」という。)をJ、K及びLから総額305,000,000円で買い受ける旨の売買契約を締結し(以下、当該売買契約に係る契約書を「本件物件契約書」という。)、本件物件を取得した後、同年8月、貸付けの用に供した。本件物件契約書には、上記の売買代金総額の内訳として、土地価額が91,500,000円、建物価額が213,500,000円である旨記載されている(以下「本件物件内訳価額」という。)。
・固定資産税評価額について
 固定資産税評価額は、固定資産評価基準によってされた不動産の評価に基づき一定の基準時におけるその適正な時価(客観的な交換価値)として決定された価格を登録するものである。

2 争点
 本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各固定資産税評価額比をもって算定すべきか。

3 争点についての主張
・原処分庁の主張は以下の通り。
本件各内訳価額は、①本件各建物は請求人が取得した時点でそれぞれ築27年、築40年及び築38年が経過しており、設備等が破損する等いずれも老朽化していたこと、②本件各物件に係る固定資産税評価額について、いずれも建物価額が土地価額を大きく下回っていること、③本件各内訳価額における土地及び建物の価額の割付比率は、本件各建物の築年数及び構造等がそれぞれ異なるにもかかわらず、一律に3対7であること及び④本件各物件の売主らに本件各建物の売却価額に係る認識がないこと、以上から、請求人と本件各物件の売主らとの交渉によって決められた客観的な価値に基づくものとは認められず、恣意的で著しく不合理なものである。
 また、固定資産税評価額は、一般的には、土地及び建物等につき適正な時価を反映しているものであるから、本件各建物の購入の代価を本件各固定資産税評価額比に基づき算定することは、合理的な基準に基づくものであるといえる。
 したがって、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各固定資産税評価額比をもって算定すべきである。

・請求人の主張は以下の通り。
本件各内訳価額は、買主、売主双方がその価格、引渡し時期等あらゆる交渉を行った結果の産物であり、第三者間での相対の商取引において合意された価額であるから、合理的な価額といえる。
 したがって、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号に規定する「当該資産の購入の代価」は、本件各内訳価額に基づいて算定すべきである。

4 審判所の判断
(1) 法令解釈
購入した減価償却資産の取得価額について、「当該資産の購入の代価」及び「当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額」の合計額とする旨規定しているところ、上記「当該資産の購入の代価」は、建物を売買契約により取得する場合には、原則として当該売買契約により定められた代金額がこれに当たると考えられる。
 しかしながら、土地と建物が一括して売買され、当該売買契約において定められた土地及び建物それぞれの価額がその客観的な価値と比較して著しく不合理なものである場合に、これを所得税法施行令第126条第1項第1号の「当該資産の購入の代価」としてそのまま認めれば、売買契約の際に、土地と建物への代金額の割り付けを操作することで容易に減価償却資産として必要経費に算入される額を過大に計上することができることとなり、租税負担の公平の原則に反する結果となるのは明らかである。
 また、所得税法施行令第126条第1項第5号イは、同項各号に規定する方法以外の方法により取得した減価償却資産の取得価額を「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」などと規定していることからすれば、同項第1号イが、購入した減価償却資産の取得価額を「当該資産の購入の代価」と規定しているのは、第三者間で減価償却資産の売買を行う場合、通常であれば、その代金額が当該減価償却資産の適正な価額であるといえるからであって、その代金額が当該減価償却資産の適正な価額と比較して著しく不合理なものである場合にまで「当該資産の購入の代価」に当たると解するのは相当ではない。
 したがって、土地と建物が一括して売買され、当該売買契約において定められた土地及び建物それぞれの価額がその客観的な価値と比較して著しく不合理なものである場合には、同号にいう「当該資産の購入の代価」は、合理的な基準により算定するのが相当である。

(2) 検討
固定資産税評価額は、固定資産評価基準によってされた不動産の評価に基づき一定の基準時におけるその適正な時価(客観的な交換価値)として決定された価格を登録するものであることに照らし、一般的には、土地及び建物につき当該基準時の前後における適正な時価を反映しているものと解される。
・本件物件について
建物価額は、当該建物の固定資産税評価額を大きく上回る一方で、本件物件内訳価額における土地価額は、当該土地の固定資産税評価額を下回っている。
そして、本件物件の建物は、請求人が取得した時点(平成28年8月9日)において築約27年が経過しており、また、給排水設備の更新が必要な状態であったというのであり、本件物件内訳価額における建物価額が当該建物の固定資産税評価額を大きく上回る評価をすべき事情は見いだせない。
また、本件物件の土地について、一般的には基準時の前後における適正な時価を反映しているといえる固定資産税評価額を下回る評価をすべき事情も見いだせない。
そうすると、本件物件内訳価額における建物価額は、本件物件の売買代金総額から過剰に価額が配分されたものというべきであり、そのような配分による本件物件内訳価額における建物価額及び土地価額は、それらの客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められる。
 上記のとおり、本件各内訳価額における本件各土地及び本件各建物それぞれの価額は、いずれもその客観的な価値と比較して著しく不合理なものと認められる。
・合理的な基準により算定される本件各物件の建物の購入の代価について
 上記のとおり、本件各内訳価額における本件各土地及び本件各建物それぞれの価額は、いずれもその客観的な価値と比較して著しく不合理なものであると認められるから、本件各建物について、所得税法施行令第126条第1項第1号にいう「当該資産の購入の代価」は、合理的な基準により算定することとなる。そして、原処分庁は、本件各建物の購入の代価について、本件各契約書における売買代金総額を本件各固定資産税評価額比によりそれぞれ按分して算定していることから、この算定が合理的な基準による算定といえるか否かが問題となる。
 この点、売主が土地及び建物を一括して譲渡する場合、当該土地と当該建物の合理的な価額比を把握できるのであれば、その価額比により代金総額を按分して各購入の代価を算定する方法を用いることで、土地及び建物の双方に収益性に係る経済的価値が反映されることになり、土地及び建物が一括して売買される取引の実態に合致するといえる。そして、固定資産税評価額は、固定資産評価基準によってされた不動産の評価に基づき一定の基準時におけるその適正な時価(客観的な交換価値)として決定された価格を登録するものであることに照らし、一般的には、土地及び建物のそれぞれにつき当該基準時の前後における適正な時価を反映しているものと解される。そうすると、上記の場合において、建物の購入の代価について、売買代金総額を土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比によりそれぞれ按分して算定することは、一般的には、合理的な基準による算定であるといえる。
 これを本件各物件の売買についてみると、いずれも売主が土地及び建物を一括して譲渡する場合であり、本件各物件の固定資産税評価額が本件各物件の適正な時価を反映しているとはいえないような事情も特段見当たらず、本件各物件の固定資産税評価額をもって本件各土地と本件各建物の合理的な価額比を把握できることから、本件各建物の購入の代価について、本件各契約書における売買代金総額を本件各固定資産税評価額比によりそれぞれ按分して算定することは、合理的な基準による算定であると認められる。

(3)その他
 上記の通り、売買契約書に記載された土地と建物の金額が固定資産税評価額比とかけ離れている場合には、土地と建物の取得価額とする金額を、特別な事情はあるのか否か、売買契約書に記載された金額で問題ないか等を検討する必要があるのではないでしょうか。土地と建物の取得価額を誤ると、消費税の仕入税額控除、建物の減価償却費に影響を及ぼします。
なお、より詳細な裁決の内容につきましては以下をご参照ください
https://www.kfs.go.jp/service/JP/128/02/index.html

PAGE TOP